数打っても当たらないよ。せめて的を絞らないと

2011.1.17

就職は、結婚と並んで「人生の一大事」だ。やり直しはきくけれど、出来ればスムーズに出発したいものです。

そしてね、就職も、結婚も「相手は一社、または一人」なんですね。たくさんお見合いしても、最適な一社とご縁を作らないとダメなんですね。「この一枚のエントリーシートであの会社とご縁を築く」と思い入れて応募して、その思いが叶ったなら、書く必要のあるシートは、一枚だけかも知れませんよ。そのくらいの重みのあるシートを書けば、一枚が目立って無視されてしまうことはないのですよ。(たくさんシートを出してもアナタのシートはどの会社に対しても“1枚”でしょう。一枚のシートであることは同じなんですよね)。それが解れば、「一番の意中の会社に最良のラブレター」を書けばいいのではないですか。‥‥

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かく書いている私もキチンとした就職が決まったのは、29才の時でした。そして、今ほどの就職難でもなかったのでした。それにも関わらず、良いご縁が出来ずに高校で非常勤講師を続けていたことを思い出します。でも私の場合は、それで良かったと思います。研究職に就いて、勉強を続けたいとかなり強く望んでいたからです。待てば海路に日和が出たのでした。

私の話から書き出したのは、大学入試で浪人、院を出て浪人、本当の就職までにかなりな紆余曲折があったので「昔に就職で苦労した同輩」だと知って貰った方が、話を始めやすいと思ったからです。

それで、初回の話は、「友人の娘さん(大学4回生)の就職がジグザクしつつも、何とか決まった話」から始めましょう。昨年の夏休み8月の末のことでした。友人がオフィスに訪ねてくれることになっていたのですが、到着して早々に、タイミング良く娘さんが傍まで来ていて、まだ就職が決まらないと話し出すのでした。私は、このタイミングの良さにピンと来て、お役に立てるかどうかわからないけれど「じゃぁ、実際に会ってお話を聞きましょう。来て貰ってください」と応じました。程なく娘さんは来ました。そして、情況を教えてもらいながら、どういうアドバイスが良いのかを考えて行きました。

聞けば、40社ほどエントリーしたようで、その内2社は最終面接まで進んだようですが、内定が得られないと言いました。

私は大学教員としては、ちょっと変わった経歴を持っているつもりです。何かと言えば、ワンマンオフィスながら、大学に勤めつつ今年で18年間有限会社を経営して来たからです。その意味で、一応経営者の顔を持っていて、世間の経済情勢についてある程度知っているつもりだからです。また、短大では長年学生の就職指導にも関わってきました。そして私の面接の特訓を受けた学生は、程なく就職が決まりました。そんな実績もあり、この経済状況の見極めもある程度していましたので、それで最悪「こんな商売が小資本で出来るよ。やってみたら」という提案を隠し球に持ちつつ、彼女の就職活動の実際を聞いていきました。

そうすると「最初の第一問から、困った答を返してくるのでした」。

私 :「40社、どういうところにエントリーしたの?」
彼女:「営業とか人前に出る職でなく、事務職がしたいので」
私 :「専攻は何でした」
彼女:「英米語学科です」
私 :「トイックでは、何点ぐらい取っているの」
彼女:「×××ぐらい」
私 :「そのぐらいの点では、売りにならないね」

こんな話をして、最終選考に残った会社の話を聞きました。そして、彼女の就活の間違いと思える点の解説に移りました。

彼女の話では、大学の就職ガイダンスで「掲示している求人票から出来るだけたくさんエントリーしなさい」と指導されたようです。そして、それを言葉通り理解して、事務職という指標で、家から通える範囲の「良いと思える会社に次々とエントリーしていった」と答えました。
今時の就職ガイダンスでは、もっと色々な注意や指導が為されていると思うのですが、意識に残ったのは上の指示だったようです。

– 途中 省略 –

私は「良い時(8月下旬)に来たね。まだ十分な活動時間が残っているので、焦らずにこの後色々考えて“就活していきなさい”」と言いました。その後の頑張りで、彼女は、大手自動車会社の販売部門の事務職に就職が内定したと友人から年末に聞きました。(それは良かった。おめでとうと内心安堵して、喜びました)
友人:父親の話では、私と話して、約一ヶ月会社訪問は止めたそうです。色々と考えていたようだと話されました。(それがとても大切です。作戦変更のために自分の心の中を分析・整理されたのだと推測します)

多少お役に立てて良かったと思いますが、この話は他人事ではないのです。実は私の娘が今年度就職口を探さなければならない身の上なのです。果たしてどうなることかと少しばかりは心配しております。

個人的なことはさておき、彼女の話は、実話です。彼女の最大の間違いは、「事務職なら、どこの会社に務めてもほぼ同じ感じだろう」と独り合点していたところでした。確かに、事務職と括れば、会社が違ってもほぼ同じ様な仕事をする事になるでしょうが、そうは言っても、扱う商品(興味の有無)から使う知恵(ルーチンワークor考える仕事)まで、実際は事務職と言っても千差万別です。そこの微妙さに気が付けなかったのです。そこが解れば、事務職と言えども一括りに出来るものでなく、「自分の特性」と「やりたい仕事」のマッチングに、一生懸命に成って調べたことでしょう。(私と話した後は、そのマッチングに意を用いて、会社の事も考え的を絞ってエントリーしていったようです)

この話をまとめましょう。

★「なるべく多くエントリーしましょう」というガイダンスは、文字通りの単純さで聞いてはいけないこと。

「下手な鉄砲じゃ数打っても当たりません。せめて的を絞らないとダメです」。たくさん受けてもダメですよ。受ける会社への思い入れも無く、たくさん受けても、面接者は「なんや冷やかしか」と思うのではないでしょうか。それでは真剣に就職しようという気持ちが伝わらないからです。気楽な気持ちで入社試験を受けに来られると「会社の方は迷惑ですよ」。求人のために相当な費用を使っているのが普通なのです。そんなことも社会人になるためには知っていないといけません。

★「職種」で括ってはいけません。

職種は、就活のために「大きく括るのに使われる」必要性があって利用されますが、求職側は、安易に同じ仕事をすると考えてはいけません。自分に強い興味がある商品を扱うのと余り興味のない商品を扱うのでは、「仕事に取り組む気持ちがうんと違って来ることが解るでしょう」。「職種」は、図書館で言えば、“大分類”で、実際に探す職は“読みたい本”に当たります。どんな内容の仕事がしたいのかを決めるために、「会社選び」をするのです。会社はどこでもいいというのは、“関係していたらどの本でもいいから読もう”という気持ちで本を探すようなものです。それではダメでしょう。

★「就職」は、社会人として生きていくための「社会との接点」を作ることになります。

学生という身分は、勉強中で、未だ修行中ということです。修行を終えて一人前なわけです。職に就いてからが「万物の霊長としての人間の本当の人生」が始まるわけです。自己責任原則の基で、社会的ルールに則っていれば、公序良俗に反しない範囲で、「自由な行動が許されるという特権」を手にすることになります。即ち、「自分の人生を精一杯に生きられる条件を得られた」というわけなのです。

★就職し自分の人生を一生懸命に生きていくわけですが、現在の日本は、資本主義の下で動いています。

それは、単純に言えば「何をするにもお金が掛かる」ということです。この事実が身に染みるくらい解れば、「コスト意識が身に付いた」と言い得るでしょう。このコスト意識を持つことはとても大切なことで、「生き金と死に金の違いが解ってきます」。また、職業に就いたが故に、「給料」がもらえます。それは、職業を通じて「社会に貢献した事の証明」でもあるわけです。そして、そのお金が、今度はアナタの生活を支える生活資金になります。社会に貢献してお金をいただき、そのお金を使って、今度は社会から色々なサービスを提供して貰って、自分自身の人生を生きていくということになっています。

人生のこのような重大な場面に「就職」という難関があるということです。大人としての人間としての本当の人生がここから始まるという地点が、「就職」して働くということになります。そのような人生の大きな見取り図を描かれて、就職活動に当たられますように、お願いしておきます。

投稿日 2011.1.17

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