福島原発事故の真相と今後
まず
燃料棒冷却プールを別建物にしないとダメ
その次に
炉心冷却系をさらに万全の状態に改善を
はじめに
原発の問題は、今や電力会社や担当の安全チェック機関に任せておけばよいという話ではなくなった。それなのに、国民に正しい情報が出されてこないように思われる。政府も一向にキチンと説明しないし、結論しか発表しないので、国民の大多数は何を本当に信じてよいのやらと言う思いでいる。このような情報伝達体制では、全国民が困っているのである。それで決して適任とは思えないながら、余り触れられられないが重要と思われる問題点を含めて、福島原発問題のこれまでとこれからについて、私見を述べさせてもらうことにする。
述べるに先立ちお断りしておくが、私は、教育系の人間であり、原子力関係に関しては、スリーマイル島原発事故以来「知識として勉強して来ただけの人間」だ。だけどこの文章、大局的に間違っていないと思うが、原子力の専門家でないことをお含みいただけるようにお願いしたい。またこの文章に関して、原子力の専門家から色々なコメントが出て来ることを期待している。
以下の議論は、かなり専門的なものになるから、原子力発電のことをまだよく理解されていない方は、「別ページの『物理豆知識:福島原発問題の解りやすい解説』」を先に読んでいただきたい。 「原発問題の解りやすい解説」に飛ぶ
1.大容量バッテリーで済む話ではない
昨年の11月末に保安院は、電源喪失対策として、大容量バッテリーを備えさせる旨の発表をしたが、その話は今度の原発事故の原因を電源喪失にしてしまおうとする論調に乗っかった話であって、正しく的を射た話ではない。ナゼなら「電源喪失」だけでこの事故が起きたわけではないからだ。肝心の冷却ポンプが働かなかった。即ち、電源が生きていたとしても炉心を冷やすことはできなかったのだ。この事実を隠蔽してはいけない。
「電源喪失」が最大の原因だという論調は方々でなされているが、安全をチェックする側からの追認は、正しい原因追求姿勢とは言い難く、そういう矮小化をしているようでは再び間違いを起こす危険性が高い。きちんと真相を述べるべきだ。いずれ真実が明らかになるのは歴史の教えるところなのだから。
送電鉄塔が1系統しかなく、それが倒れ「電源喪失」に陥り、電源車が多数集められたが、供給する電圧が違う、差込プラグの形が違って役に立たなかった。何で、役に立つ非常用電源車が一台もないのか、発電機が6台もあるというのに。また、事故当日、米軍から中性子吸収剤のホウ酸の空輸による援助をを受けている。ホウ酸の備蓄がなかったのか。この辺は、高額な費用を要するものではない。安全対策にお金をケチりすぎた象徴である。
2.非常用炉心冷却系が、何があっても確実に動かないと「原子炉の安全な停止操作はできない」
原子炉の安全停止のためには、「非常用炉心冷却系が、何があっても確実に動くこと」が最重要なところ。電源喪失は「とても困ることではあるが、まだ非常用電源の措置はできる」だから絶対絶命というわけではない。しかし、炉心冷却は何が何でもやらねばならないことだ。こちらの方が、重要性は上だ。働かないと炉心溶融(メルトダウン)に進んでしまう。この間の事情については、国民的な知識にしたいところだ。
核分裂反応は、制御棒の挿入で正常停止したとしても「“大量の燃え残りに当たる熱が燃料棒より出る”ので、それを確実に冷やしてやらないと、炉心が高温になり炉心溶融をおこしてしまう」。この発熱は、まさに自然法則そのもので、現在のところ急速に止める方法は発見されていないのだ。だから、発熱が減ってくるまで冷やすしかないのだ。それでハッキリするだろう。原子炉の安全停止に不可欠な設備が、「非常用炉心冷却系」であることが。
「非常用炉心冷却系」は、「水を媒介にして、高温高圧状態の原子炉炉心から大量の熱を熱水として運び出し、その水に含まれている熱を海中または空気中に捨てるための複雑な一大システム」により成っている。ポンプ有り、モーター有り、各種センサー有り、それらの計測及び制御のための電線や配管が大量に有り、尚かつ、予備系統を含めて一体的に作動する必要があるのだ。
パイプが破断すると、電線を繋ぐような訳にはいかない。だから配管のパイプは、壊れないように作らねばならない。十分な耐震性があって、強度的にも十分なものでなければならないということだ。
この一大システムが、何があっても正常に働くだけの確実な施設でないと困るのだ。炉心冷却系は、まさに原発の生命線なのだ。
3.大量の放射能汚染になったのは、3号炉の使用済み燃料プールが大爆発したため
ここの記述がマスコミの報道で殆どなされない。しかし、今回の事故の最大のポイントになると私は思っている。「3号炉の使用済み燃料プールの大爆発」がなければ、立ち入り禁止区域は、もっと狭くて済んだだろう。放射能汚染を引き起こした「放射性物質」は、3号炉の使用済み燃料プールに保管されていた使用済み核燃料棒だからだ。You tube等でも解説されているが、あの大爆発で、燃料プールに保管されていた大量の使用済み核燃料棒は、ほぼ全量空気中に吹き飛ばされた。使用済み核燃料棒は、そのものがそのまま高濃度放射性核廃棄物であるから、地上に降り注いだ放射性物質の殆どは、3号炉のそれであると言って良いだろう。
この大爆発さえなければ汚染はうんと軽微で済んでいたはずだ。ナゼなら、原子炉内部の燃料棒は、炉心溶融を起こしていたとしても、現在のところ「格納容器は、大きく壊れていないため、原子炉内部の核燃料はほぼ閉じ込められている」と考えられるからだ。事故で漏れたとしても、燃料プールの大爆発と放射性物質の量が全然違うので、また空気中高く舞い上がったわけでないため、汚染は比較的原発周辺地域で済んでいるはずだからである。
地上汚染に関して、述べておかねばならない重要なことがある。それは、3号炉の大爆発時点で、「日本にとって幸いしたことは、海に向かう風が吹いていた」ことである。爆発時、吹き上がった大量の使用済み核燃料棒の残骸の半分以上(ほぼ8割以上と推測するが)太平洋上に落下して、地上汚染は、ウンと軽減されたのである。もしも、大爆発の時、陸側へ風が吹いていたらと考えると空恐ろしい感じがする。
4.建屋上部に大規模な燃料棒冷却プールがあるなんて
今回の事故で私が初めて知ったことは、「原子炉建屋の内部、原子炉の上に、使用済み燃料プールがあり、そこに大量の燃料棒が保管されているということ」だった。燃料棒を交換した直後の棒は、放射能が高くて移動させるのが困難なため、建屋に保管しているとは想像できても、冷えた物まで含めて保管場所として「建屋内部の最上階の高い所に」大量に置かれているとは想像出来なかった。だって素人が考えても“危険すぎるから”。
事故の報道が始まって、この事実に一番びっくりした。そして、その恐ろしさが現実のものになってしまったのである。
今までの原発の「安全PR」では、何重にも放射性物質を閉じ込めていて、万が一の時でも格納容器で閉じ込めて、絶対に外に出さないと宣伝していたが、エライところで「放射性物質を閉じ込める対策」に抜けが生じているというか、宣伝とは裏腹に放射性物質が外部に実質じゃじゃ漏れだったのである。3号炉の使用済み燃料プールそのものが、あろうことか、「裸の原子炉」に成ってしまったのだから。
「裸の原子炉」が出来てしまったからこんな事に
燃料プールにたっぷり使用済み燃料棒が入ってたから、薄いコンクリートの壁で遮蔽されただけの原子炉が出来てしまったのだった。核燃料は、ある量以上集まれば、自然に核反応を起こす。これは、JCOの事故の時もそうだった。“まさか、こんな大がかりな「裸の原子炉」が現実にできてしまうとは、全くおそろしいことだ”。それで大爆発して3号炉の建物はぺちゃんこになってしまったわけだ。そして、その大爆発で、保管していた使用済み燃料棒のほぼ全量を吹き飛ばした。飛散した放射性物質の大部分は使用済み燃料その物なのだ。
少しの燃料棒だけだったら、まず大爆発は起きなかっただろう。どうしてそんなに大量の燃料棒をあんな危険なところに保管していたのか。幾ら考えても正気の沙汰とは思えない。この大失敗を原子力関係者は、「真摯に大反省して欲しい」。建屋内部に置いていいのは、「(熱を発生中の)移動できない燃料棒だけ」に限定しないとダメ。「裸の原子炉」が出来てしまった事実で、“放射性物質が外部に出ないように何重にも防護している”という宣伝文句が、完全に空文になった。
5.建屋の中に燃料棒を保管する構造の原子炉は、世界中にかなりあるらしい
ネットで調べてみた範囲でも、建屋の中に燃料棒を保管する構造の原子炉は、世界中にかなりあるようなのだ。「なんでこんな危険な構造に成っているのか?」。それは解る。何も起きないとすれば、その構造が使い勝手がよいからだ。しかしだ、「危険すぎる」。原子力のプロならば、もしもの時に「裸の原子炉になる危険性」は百も承知していると思われてしかるべき話だからである。
この構造による大爆発=大失敗は、国内的には決定的に反省して貰わねばならない。この大爆発がなければ、現在のような大規模汚染はなかったはずなのだ。
だから国内的には、運転再開に当たっては、「使用済み燃料プール」は、同じ敷地内でよいとしても「最低限、原子炉建屋とは別棟で、地面からそう高くない(主要部を地下にする構造で)施設にするべきだ」。
今回の原発事故の致命傷は、燃料棒貯蔵プールが爆発してしまったからだ。三度目の裸の原子炉が働いてしまう失敗は許されない。(3号炉が二度目。初回はJCO事故)
6.再稼働の条件を考えると
◆「使用済み燃料棒プールを原子炉建屋とは別棟で設置すること」これは外せない
◆非常用炉心冷却システムを何があっても働くように保てることが至上命令
◆それにプラスして「原発の怖さ」を知らない経営陣では、安全対策をケチるのでダメ
投稿日 2012.1.11