授業改善とFD活動について

2008年度は、多数のノーベル賞受賞者が出て、まことにおめでたい年でした。それは、まことに嬉しい出来事でしたが、トータルな日本の大学の情況は、表面のおめでたい成果とは裏腹に「悩み山積」の状態が相変わらず続いたと言うべきでしょうか。

私は、地理的近さと、これまでの繋がりから、京都大学の研究会に参加させていただくことが多いのですが、「日本全体での大学でのFD活動が順調に立ち上がって、成果を出してきた」とは言いにくい情況であると思っています。それで、現時点でのFD活動についてと、これからの展望に関して、個人的な考え方をまとめてみようと思いました。(それというのも、09年春に大阪キリスト教短期大学を退職します。だから京都大学での発表もこの春のが最後になると思います)。

端的に申して、現状の大学でのFD活動は“中だるみ状態”にあるように感じます。草創期からでは15年以上の取り組みで、関心のある教員は、それなりに自分自身の授業を見直し、良い授業を目指したわけですが、世の中しばしばそうであるように「授業改善に熱心になって貰わねばならない教員」が、相変わらずFDに無関心なわけです。そこが、何と言ってもネックで足並みが揃わないで、全体的な成果を上げにくい限界を作っています。
しかし、このように嘆いていては、これから先の展望も出て来ません。そして、それでは、FDを推進する立場の人達の責任逃れの言い分にもなってしまいます。その発想ではダメで、現状を如何に前に進めるかで対策を検討しなくてはいけません。即ち、「FDに関心を持ってくれない教員に、今後どのように働きかけるべきなのか」が問われているわけです。中だるみの原因は、この働き掛け方がハッキリしないという壁が立ちはだかっているためで、この壁を崩す具体的対処法が、今こそ必要とされているのです。

実は、この壁に関しては、授業研究を専門にしてきた人間には「自明の事柄」なのです。私は、無名の人間で、研究的にも大した成果を出していませんので、大学の先生方には、私の研究発表に本気で耳を傾けていただけなかったのですが、「この壁の乗り越え方」を研究発表のいの一番に発表し論文に書かせて貰っているののです。それは、京都大学の大学教育研究フォーラムのPDFに納められています(下のURLをクリックしてください)。
表題は、「FD研究:大学での授業検討会の進め方」
http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/edunet/archive_pdf/03.p82.kusa.pdf

というものです。そこに、FD活動に関心を寄せてくれない先生達に関心を持たせるための大切なノウハウとして、エッセンスを開示してあるのです。
解り易く言うと「貴重な時間を割いて授業検討会に参加して“お土産もなしに帰らせては”再び検討会に参加していただけないのです」。早い話、“授業検討会は、開く都度、授業改善に役立つ何かのお土産を持ち帰って頂くように”運営しないと参加者は続いてきてくれないのです。

授業研究を専門にしてきた人間は、この苦労を嫌というほど知り抜いているのです。検討会を企画する方の人間は、「参加する方の人間の心理を忘れがちですが、自分が参加する方の人間だった時のことを思い出すだけで納得されるでしょう」。小・中学校の先生方は、言わば授業が生命線に当たるわけでしょうが、大学の先生方は、ともすれば研究が生命線で、「研究が主で、授業は従」とお考えの人も多いはずです。特に、研究を重視する気風の強い大学では尚更のことでしょう。そんな環境で「授業検討会に出たけれど、殆ど得るところがなかったら」、次回からの参加は無いと思わなくては成りません。大学の先生方は、超お忙しい人が大半です。そんな先生にムダだったと感じさせた時間は、取り返しようもありません。「時間が無駄だと思わせるような検討会は、持つべきではありません」。忙しいということを口実にすることなく、なるべく周到な準備をして、出来れば「検討会の議論にお土産が作れないことさえ前提にして、配布する書類だけでもお土産に値するものを」用意するくらいの周到さが要ります余り回数はありませんが、私の参加した「大学での授業検討会で、お土産らしいものを貰った経験がありません」。その辺の配慮がなされていないというのが大学でのFD活動の実態なのです。それ故、授業検討会の開催者側は、その厳しい事情をハッキリと自覚して、生半可な授業研究会を開いてはいけません。

そのことに関して一言付け加えねばならないことがあります。特別変な人は例外でしょうが、大学では「授業は従」と言っても普通に授業をされている先生で、「全く授業に関心が無いという方はごく少ない」と思われます。例外的変人は除いて、普通の先生は、授業に関しても「評判が悪いよりは、良い方がいい」のです。この大学教員の心理も理解出来ますでしょう。だったら、“授業検討会に出席して、授業改善に役立つ知見が得られたら”、多くの先生方は参加されるようになると思われます。FDや授業研究の活動が広がって行くのに時間は掛かるでしょうが、「勉強になった・役だった」という噂が広がれば、次回は覗いてみるかなと思うものなのです。そのような心理的力学で、FD活動は、地道に広がっていくのです。生意気なようですが、教育学部で専門として授業研究をされているような先生が居られる大学は良いのですが、そのような先生の居られない大学では、「お土産を持ち帰っていただくような授業検討会」を実施するのはなかなか苦労の多いものですよ。手探りで、おまけに役に当たったから仕方なく思い付きで授業検討会をしていては、「周りの先生方をFDの輪の中に誘い込むことも出来ないでしょう」。FDを有効なものにするには、“毎回、お土産をもって帰ってもらえる有効な会をしなければなりません”。そこが、授業研究の組織論としてのエッセンスなのです。生意気ついでに書きますが、「有効な検討会の持ち方」は、手本を数回見て、体験すれば、やり方の一応のノウハウは、解ると思われます。そのノウハウが掴めたら、それを真似て、それぞれの大学の特殊性を加味して、独自の検討会を工夫して創り出して行かれるのがよいように思います。
私で良ければ、手当不要、交通費等の実費のみでアドバイスさせていただきますよ。最後が売り込みになって良くないのですが、ホント、我田引水でなしに30年それをやって来ましたので、「お土産作りのノウハウ」を是非とも伝授しておきたいのです。
このお土産作りが出来ないと検討会に来ていただける先生の数はなかなか増えません。「自分の授業を良くしたい」と思っておられる先生方は、自分の授業の欠点を知り、どうすれば克服できるかに最も関心をお持ちなのですから。このお土産作りが「検討会の最強運営ノウハウ」になるのです。
FD活動に関して、ご相談がありましたら、このアドレスにメールをください。
kel.kusaka(アットマーク)maia.eonet.ne.jp

餅は、餅屋というでしょう。私は、昔から自称「授業屋」なのです。

日下教育研究所 所長 日下 和信

投稿日 2009.2.5

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